「鏡を見ると肩が前に入り、上半身が丸く見える」
「巻き肩を直そうと胸を張ったり、肩甲骨を寄せたりしているけれど、気づくと元に戻っている」
「胸のストレッチを続けても、なかなか姿勢が変わらない」
このような場合、肩を後ろへ引くことだけでは巻き肩は変わりにくくなります。
結論からいうと、巻き肩を見直すときに大切なのは、
「肩を正しい位置に固定すること」
ではありません。
胸郭の上で肩甲骨が動き、その肩甲骨に対して腕が動き、さらに体幹まで含めて無理なく身体を使えるかを確認することです。
肩が前に見える人でも、
胸椎・胸郭が丸まった状態で腕を使っている人。
腕を上げると肩がすくむ人。
肩甲骨を後ろへ寄せたまま固めている人。
胸を張ろうとして腰まで反っている人。
では、見直したいポイントが違います。
だから巻き肩改善では、
「胸が硬いから伸ばす」
「背中が弱いから鍛える」
と最初から決めるのではなく、なぜ肩が前に見えているのかを身体全体から確認することが大切です。
巻き肩とは?肩が前にあること自体が病気ではない
「巻き肩」は一般的に、横から見たときに肩が前方へ位置していたり、正面から見たときに肩が内側へ巻いて見えたりする姿勢を表す言葉として使われています。
医学的な診断名ではありません。
また、人の肩甲骨は胸郭の上に乗っていて、腕を使うたびに位置を変えます。
そのため、
「肩は常にこの位置にあるのが正解」
という一点へ固定する必要はありません。
むしろ大切なのは、
腕を上げる。
前へ手を伸ばす。
物を持つ。
身体をひねる。
歩く。
といった動作に合わせて、肩甲骨が胸郭の上を動けることです。
巻き肩を改善したいからといって、肩甲骨をずっと後ろへ引き続ける必要はありません。
巻き肩になる原因は「胸の筋肉が硬い」だけではない
巻き肩について調べると、
「大胸筋や小胸筋が硬いから」
「背中の筋肉が弱いから」
という説明をよく見かけます。
これらが関係する人はいます。
ただし、巻き肩の見え方は胸郭・肩甲骨・上腕・頭部・骨盤まで含めた位置関係によって変わるため、一つの筋肉だけを原因にすることはできません。
胸椎・胸郭が丸くなると肩甲骨の動きも変わる
肩甲骨は、肋骨でできた胸郭の上を滑るように動きます。
そのため、肩だけではなく胸郭の形や位置も重要です。
実際、健康な成人を対象に胸椎を起こした姿勢と前かがみの姿勢を比較した研究では、胸椎の姿勢が変わることで肩甲骨の動きや肩の可動域、筋力に変化がみられています。
たとえばデスクワークのあとに身体を起こそうとしても、
胸椎はほとんど動かない。
肩だけ後ろへ引く。
その結果、首や腰へ力が入る。
という人がいます。
この場合、肩甲骨だけを寄せる前に、胸郭を動かしながら腕を使えるかを確認する必要があります。
猫背も同時に気になる方は、猫背の原因と改善方法|ストレッチだけで戻る理由も参考にしてください。
肩甲骨は「寄せる」だけではなく、腕と一緒に動く必要がある
肩甲骨は腕を上げるときに、
上方へ回る。
後ろへ傾く。
胸郭の上で向きを変える。
といった動きをします。
つまり、巻き肩を改善しようとして肩甲骨をずっと背骨側へ寄せてしまうと、腕を動かすときに必要な肩甲骨の動きを邪魔する場合があります。
たとえば両腕を頭の上へ上げてみてください。
そのとき、
肩甲骨を寄せたままにしようとして腕が上がりにくい。
肩をすくめる。
腰を反らせる。
身体を後ろへ倒す。
という動きが出るのであれば、
「もっと肩甲骨を寄せる」
ことが必要とは限りません。
肩甲骨が胸郭の上で動きながら、腕を上げられることの方が重要です。
小胸筋が硬いからストレッチすれば巻き肩は治る?
胸の前にある小胸筋は肩甲骨に付着しているため、長さや柔軟性が肩甲骨の位置・動きに関係することがあります。
実際、肩甲骨を安定させる運動を行った研究では、肩の姿勢や小胸筋の柔軟性、肩甲骨周囲筋の筋力に変化が報告されています。
だから胸のストレッチが必要な人はいます。
ただし、
「巻き肩=小胸筋が短い」
「小胸筋を伸ばせば巻き肩が治る」
と全員に当てはめる必要はありません。
ストレッチをした直後は肩が後ろへ動きやすくなっても、腕を使うと元へ戻るのであれば、
柔軟性だけではなく、
その可動域を自分で使えるか。
胸郭と肩甲骨を一緒に動かせるか。
日常動作の中でも使えるか。
まで確認します。
胸を張って巻き肩を直そうとすると、腰を反ることがある
「巻き肩だから姿勢を良くしよう」
と胸を張ったときに、腰まで大きく反っていませんか。
胸椎・胸郭を十分に動かせないまま上半身を起こそうとすると、腰を反らせて姿勢を作ることがあります。
すると、
肩は一瞬後ろへ下がる。
胸も開いて見える。
しかし肋骨が前へ出る。
腰の反りが強くなる。
という状態になります。
これでは「巻き肩を直した」というより、身体の別の場所を使って姿勢の形を変えただけです。
巻き肩と反り腰が同時に気になる方は、反り腰の原因と改善法|ピラティスで見直す姿勢と身体の使い方も参考にしてください。
デスクワークだから巻き肩になるとは限らない
長時間パソコンやスマートフォンを使っている人ほど、
「デスクワークが原因で巻き肩になった」
と感じることがあります。
長時間同じ姿勢で過ごせば、身体を動かす機会が少なくなることはあります。
ただし、座って仕事をすること自体が悪いわけではありません。
重要なのは、
同じ姿勢から動けるか。
胸郭を起こせるか。
腕を上げられるか。
肩甲骨が動けるか。
長時間の作業後も身体の位置を変えられるか。
ということです。
「良い姿勢を8時間キープする」のではなく、身体が一つの姿勢に固定されないことを考えます。
巻き肩を自分で確認する3つのポイント
巻き肩は、静止した写真だけではなく、実際に身体を動かしたときまで確認すると特徴が分かりやすくなります。
1.力を抜いて立ったときの肩を見る
鏡の前で、胸を張らず普段通りに立ちます。
このとき、
左右の肩の位置。
胸郭の向き。
頭の位置。
肋骨と骨盤の位置。
を確認します。
「肩が何cm前なら巻き肩」という診断をするためではありません。
普段、自分がどのような位置で立っているのかを知るためのチェックです。
2.両腕を上げたときに肩・腰がどう動くかを見る
そのまま両腕を頭の上へ上げてみます。
このとき、
肩がすくむ。
肘が大きく曲がる。
腰が反る。
肋骨が前へ飛び出す。
身体を後ろへ倒す。
といった動きがないか確認します。
肩だけを見るのではなく、胸郭や腰まで一緒に見ることがポイントです。
3.肩甲骨を寄せるのをやめたときにどうなるかを見る
普段「姿勢を良くしよう」と肩甲骨を寄せている人は、一度力を抜いてください。
力を抜いた瞬間に姿勢が大きく崩れるのであれば、
「もっと意識して肩甲骨を寄せる」
よりも、
なぜ力を入れないとその位置を保てないのか
を確認する必要があります。
姿勢は一日中筋肉で固定しておくものではありません。
巻き肩を改善するために見直したい3つのこと
必要な場所が動くようにする
胸椎が動きにくい。
肩甲骨が動きにくい。
肩関節が動きにくい。
という人には、必要な可動域を作ります。
ただし、柔らかくすることだけがゴールではありません。
肩甲骨と腕を一緒に使う
巻き肩改善では、肩甲骨を「正しい位置」へ置いて終わりではありません。
腕を上げる。
押す。
引く。
前へ手を伸ばす。
といった動きの中で、肩甲骨と腕を連動させます。
立つ・歩くなど全身の動作へつなげる
肩だけを整えても、立った瞬間に胸郭が後ろへ倒れたり、腰を反ったりすれば元の姿勢へ戻ります。
肩・胸郭・骨盤・股関節まで含めて身体を使うことが重要です。
自宅でできる巻き肩エクササイズ3選
ここでは、「巻き肩を強制的に正しい位置へ戻す運動」ではなく、身体の使い方を確認するためのエクササイズを紹介します。
1.胸椎回旋で胸郭を動かす
横向きになって両膝を軽く曲げます。
両腕を身体の前へ伸ばします。
上側の腕をゆっくり後ろへ開きながら、胸郭を回旋させます。
このとき、腕だけを床へ近づけることが目的ではありません。
胸郭ごと動いているかを確認してください。
左右5〜8回程度から始めます。
痛みが出る場合は可動域を小さくします。
2.ウォールスライドで肩甲骨と腕を一緒に動かす
壁に前腕を当てます。
そこから腕をゆっくり上へ滑らせます。
このとき、
肩甲骨を背骨側へ寄せ続けない。
肩を強くすくめない。
腰を反って腕の高さを作らない。
ことを意識します。
腕が上がるにつれて肩甲骨も胸郭の上を動いていく感覚を確認します。
6〜10回程度行います。
3.四つ這いで床を押す
四つ這いになります。
肘を曲げずに手のひらで床を押し、胸を床から少し遠ざけます。
このとき、
背中を過剰に丸める。
肩を耳へ近づける。
のではなく、肩甲骨が胸郭の上を外側へ動く感覚を確認します。
そのあと力を抜いて戻します。
6〜10回程度繰り返します。
「肩甲骨は寄せるもの」と考えていた人にとっては、肩甲骨を外側へ動かすことも大切な練習になります。
運動で巻き肩は変わる?
巻き肩や前方頭位、胸椎後弯などを対象とした2024年のシステマティックレビュー・メタ解析では、治療的な運動によって巻き肩を含む姿勢指標に改善が報告されています。
また、若年女性を対象としたランダム化比較試験でも、肩甲骨を安定させるエクササイズによって肩の姿勢や小胸筋の柔軟性、肩甲骨周囲筋の筋力に変化がみられています。
ただし、
「この種目をすれば全員の巻き肩が治る」
という意味ではありません。
研究で使われている運動内容や対象者もさまざまです。
だから実際には、
どこが動きにくいのか。
どこを使いすぎているのか。
腕を動かしたときに何が起こるのか。
を確認して、その人に必要な運動を選ぶことが重要です。
巻き肩=肩こり・首こりの原因とは限らない
「肩が前にあるから肩こりになる」
と説明されることもありますが、痛みやこりを姿勢だけで説明することはできません。
オフィスワーカーを対象にした研究では、頭部前方位や胸椎後弯と首の痛みには関連がみられた一方、肩の位置そのものと首の痛みには明確な関連が確認されなかったという報告もあります。
そのため、
肩こりがある
↓
巻き肩だから
↓
肩を後ろへ戻せば治る
と単純に考える必要はありません。
強い首・肩の痛み、腕のしびれ、筋力低下などがある場合は、姿勢だけで判断せず医療機関へ相談してください。
ピラティスは巻き肩改善にどう使う?
ピラティスをすれば、自動的に巻き肩が改善するわけではありません。
ただしピラティスは、
胸郭を動かす。
肩甲骨と腕を連動させる。
呼吸しながら体幹を支える。
その状態で腕や脚を動かす。
といった練習を組み合わせやすいため、身体の使い方を見直す手段として活用できます。
ピラティスと姿勢についてまとめた2024年のシステマティックレビューでも、頸椎・胸椎・腰椎など複数の姿勢指標への変化が報告されています。ただし研究内容にはばらつきがあり、巻き肩に対する特定の種目が唯一の正解というわけではありません。
Healthcare Studio ileでも、
「巻き肩だからピラティス」
という考え方はしていません。
身体を確認したうえで、必要な動きを練習する手段としてマシンピラティスやトレーニングを使います。
実際のビフォーアフター|巻き肩と猫背を見直したケース
Healthcare Studio ileには、「猫背と巻き肩を直したい」というご相談もあります。
実際に掲載している事例では、週1回のトレーニングを行い、6回目の時点で巻き肩・猫背・首の位置など、姿勢の見え方に変化が確認されています。レッスンに加えて、毎日約10分のセルフストレッチにも取り組まれていました。

この事例で見てほしいのは、
「6回やれば巻き肩が改善する」
ということではありません。
同じ巻き肩に見えても、身体の状態や生活習慣、必要な運動は一人ひとり異なります。
実際の写真と経過については、6回のトレーニングで巻き肩に変化がみられたビフォーアフターで紹介しています。
※ビフォーアフターはこの方個人の変化であり、すべての方に同じ回数・同じ変化を保証するものではありません。
反り腰と巻き肩が同時に気になる方は、反り腰と巻き肩のビフォーアフター事例も参考にしてください。実際の症例ページでは、初回体験前後の姿勢変化が掲載されています。
巻き肩を直すなら、肩の位置より「どう動いているか」を見る
巻き肩を見直すとき、
胸の筋肉を伸ばす。
肩甲骨を寄せる。
背中を鍛える。
という方法だけを繰り返す必要はありません。
同じように肩が前に見えても、
胸郭が丸まっている人。
肩甲骨が動きにくい人。
腕を上げると肩がすくむ人。
胸を張ると腰を反る人。
立ち姿勢全体が崩れている人。
では必要な運動は違います。
だから最初に確認したいのは、
「肩をどこへ戻すか」
ではなく、
「なぜ今の身体では肩が前に見えているのか」
です。
そして、
必要な場所を動かす。
その範囲を自分でコントロールする。
腕を使う動作へつなげる。
最後に日常生活へつなげる。
という順番で身体を見直します。
名古屋・栄・矢場町で巻き肩を身体の使い方から見直したい方へ
Healthcare Studio ileでは、巻き肩を見た目だけで判断して、
「肩甲骨を寄せましょう」
「胸の筋肉を伸ばしましょう」
と全員に同じ運動を行うことはしていません。
立った姿勢だけではなく、
腕を上げる。
前へ手を伸ばす。
身体をひねる。
前屈する。
スクワットする。
歩く。
といった実際の動作を確認し、胸郭・肩甲骨・上腕・背骨・骨盤など身体全体がどのようにつながっているかを見ます。
そのうえで、一人ひとりに必要な身体の使い方を練習する手段として、マシンピラティスやトレーニングを活用します。
「肩甲骨を寄せても巻き肩が戻る」
「胸を張ろうとすると腰や首が疲れる」
「猫背と巻き肩を一緒に見直したい」
「自分の場合はどこを直せばいいのか分からない」
という方は、名古屋・栄で姿勢を動作から見直すパーソナルマシンピラティスもご覧ください。
肩を無理に後ろへ固定する前に、一度「なぜ今の肩の位置になっているのか」を実際の身体の動きから確認してみてください。
参考文献
- Sepehri S, Sheikhhoseini R, Piri H, Sayyadi P. The effect of various therapeutic exercises on forward head posture, rounded shoulder, and hyperkyphosis among people with upper crossed syndrome: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2024;25:105. 巻き肩・頭部前方位・胸椎後弯などに対する治療的運動の効果を検討したシステマティックレビュー・メタ解析です。
- Kebaetse M, McClure P, Pratt NA. Thoracic position effect on shoulder range of motion, strength, and three-dimensional scapular kinematics. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 1999;80(8):945-950. 胸椎姿勢の違いが肩関節可動域・筋力・肩甲骨運動へ与える影響を検討した研究です。
- Nitayarak H, Charntaraviroj P. Effects of scapular stabilization exercises on posture and muscle imbalances in women with upper crossed syndrome: A randomized controlled trial. Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation. 2021;34(6):1031-1040. 肩甲骨周囲のエクササイズによる肩の姿勢、小胸筋柔軟性、肩甲骨周囲筋力への変化を検討したランダム化比較試験です。
- Nejati P, Lotfian S, Moezy A, Nejati M. The relationship of forward head posture and rounded shoulders with neck pain in Iranian office workers. Medical Journal of the Islamic Republic of Iran. 2014;28:26. 頭部・胸椎・肩の姿勢と首の痛みとの関連を検討した研究です。
- Li F, Dev RD, Soh KG, Wang C, Yuan Y. Effects of Pilates on Body Posture: A Systematic Review. Archives of Rehabilitation Research and Clinical Translation. 2024;6(3):100345. ピラティスによる身体姿勢への影響を検討したシステマティックレビューです。
著者・監修者プロフィール
著者・監修者:水野豪司
理学療法士/Healthcare Studio ile 代表
巻き肩や猫背などの姿勢を見る際に、見た目だけで「肩が前にある」「胸の筋肉が硬い」と判断するのではなく、胸郭・肩甲骨・上腕・背骨・骨盤など身体全体のつながりと、腕を上げる・立つ・歩く・しゃがむといった実際の動作を確認することを大切にしています。
Healthcare Studio ileでは、一人ひとりの身体を評価したうえで、ピラティスやトレーニングを身体の使い方を変えるための手段として活用しています。
