深く息を吸っているつもりなのに、胸に空気が入ってこない。
呼吸をするたびに肩が上がり、夕方になると首の付け根が硬くなる。意識して深呼吸をしても、鎖骨の周りばかりが動いて、脇腹や背中はほとんど広がらない。
このような「肩で息をしているタイプ」の浅い呼吸では、肺活量を鍛える前に、ストレートネックと胸郭の動きを見直す必要があります。
頭が身体より前へ出ると、首の位置だけでなく、背中にある胸椎や肋骨の位置も変わります。その結果、本来呼吸に使われるはずの胸郭が十分に広がらず、首や肩の筋肉が代わりに働き続けてしまうからです。
呼吸の浅さと首や肩の張りを別々の問題として考えている限り、この悪循環はなかなか変わりません。
浅い呼吸とストレートネックはなぜ一緒に起こるのか
一般にストレートネックと呼ばれる姿勢では、頭が身体より前へ移動しています。
しかし、頭だけが単独で前へ出ているわけではありません。多くの場合、その下にある胸椎が丸まり、胸郭全体も前方へずれています。
胸椎とは、首と腰の間にある背骨です。左右の肋骨は胸椎につながっており、呼吸のたびに胸椎と肋骨が連動することで、胸の中に空気を取り込むための空間が生まれます。
ところが、デスクワークやスマートフォンを見る姿勢が続き、胸椎が丸まったまま動きにくくなると、肋骨も十分に広がれません。
頭を前へ出した姿勢と自然な頭の位置を比較した研究では、頭を前へ出した姿勢で下部胸郭の動きが小さくなり、努力性肺活量などの呼吸機能も低下しました。小規模な研究ではありますが、頭の位置が胸郭の形と呼吸に影響することを示しています。
つまり、深く息を吸えない原因を「肺の力が弱いから」と考える前に、空気を受け入れる胸郭が動ける状態になっているかを確認する必要があります。
胸郭が動かないと首や肩の筋肉が呼吸を助け始める
胸郭が十分に広がらなくても、身体は呼吸を止めるわけにはいきません。
そこで、胸の上側を引き上げることで空気を取り込もうとします。
そのときに使われるのが、胸鎖乳突筋や斜角筋など、首から鎖骨や上部の肋骨につながる筋肉です。これらは本来、頭や首を動かすだけでなく、呼吸が大きく必要なときに肋骨を持ち上げる補助的な役割も持っています。
運動をした直後などに一時的に働くこと自体は問題ではありません。
しかし、安静にしているときまで毎回の呼吸で強く使われると、首の付け根や鎖骨の周りに力が入り続けます。
前方へ出た頭の位置が強い人ほど、呼吸機能が低く、胸鎖乳突筋や斜角筋などの活動が大きかったことを示した研究もあります。
次のような呼吸になっている人は、首や肩が呼吸を代償していると考えられます。
- 息を吸うたびに両肩が持ち上がる
- 鎖骨の上や首の前側ばかりが動く
- 深呼吸をすると首に力が入る
- 脇腹や背中がほとんど広がらない
- 呼吸の後に首や肩が疲れる
- デスクワーク後に息が詰まったように感じる
首の筋肉を揉んでもすぐに硬さが戻る人は、筋肉そのものが悪いのではなく、呼吸のたびに筋肉を使い直しているのかもしれません。
首や肩をほぐすだけでは繰り返しやすい理由
首こりや肩こりがあると、首を伸ばしたり、肩を回したり、マッサージを受けたりする人は多いと思います。
これらによって一時的に筋肉の緊張が和らぐことはあります。
それでもすぐに元へ戻るのは、胸郭が動かない状態のまま、首の筋肉が呼吸を助け続けているからです。
呼吸は、眠っている間も含めて一日に何度も繰り返されます。数分間ストレッチをしても、その後の呼吸で同じ筋肉を使い続ければ、首や肩は再び緊張します。
また、「姿勢を良くしよう」と胸を強く張ることにも注意が必要です。
良い姿勢は、本来、無理に力を入れなくても呼吸しやすい状態です。ところが、胸を張りすぎたり、腰を反らせたり、顎を強く引いたりして見た目だけを整えると、肋骨が前へ開いたままになります。
肋骨が前へ開いた姿勢では、息を吸うことばかりを頑張り、十分に吐けなくなりやすくなります。
深く吸うためには、先に息を吐いて、広がった肋骨が自然に元の位置へ戻る必要があります。吐いても胸が高いまま残っている人は、さらに吸おうとするよりも、肋骨を閉じられる姿勢と呼吸を取り戻すことが先です。
浅い呼吸で本当に見直すべき4つのポイント
胸椎が伸びたり回ったりできるか
胸椎は、ただ真っすぐに伸ばせばよいわけではありません。
丸まる、伸びる、左右へ回るといった動きが必要です。胸椎が丸まったまま固まっていると、肋骨も一緒に動きにくくなります。
座った状態で身体を左右へひねったときに、胸ではなく腰や首ばかりが動く人は、胸椎の動きが小さくなっていることがあります。
肋骨が前だけでなく脇や背中にも広がるか
呼吸で胸の前側が持ち上がっていても、それだけで胸郭全体が動いているとは限りません。
本来、息を吸うと肋骨は前方だけでなく、左右や背中側にも広がります。
脇腹や背中がほとんど動かず、鎖骨の周りだけが上下している場合は、上部の胸郭と首の筋肉に呼吸が偏っています。
息を最後まで吐けるか
浅い呼吸の人は、吸う力が足りないと思いがちですが、実際には吐き切れていないことも少なくありません。
十分に吐けなければ、胸郭の中に空気が残った状態となり、次の呼吸で新しい空気を取り込む余白を作りにくくなります。
息を長く吐こうとしたときに、腰を丸めないと吐けない、腹部がまったく働かない、肋骨が開いたまま残る人は、呼吸と体幹の連動も確認する必要があります。
骨盤と胸郭が重なっているか
胸郭の動きは、背中や肋骨だけで決まりません。
骨盤が前へ押し出されたスウェイバック姿勢や、腰を強く反らせた姿勢では、胸郭が骨盤の真上から外れます。
すると、横隔膜や腹部の筋肉が働きやすい位置を保ちにくくなり、首や肩による呼吸が増えます。
ストレートネックを改善するときに首だけを見るのではなく、骨盤から頭までの位置を確認する必要があるのはこのためです。
自宅でできる浅い呼吸のセルフチェック
椅子に楽に座り、片手を胸の上部、もう片方を脇腹に当てます。
まず、普段どおりに3回ほど呼吸してください。
次の点を確認します。
- 息を吸ったときに肩が上がっていないか
- 胸の上側だけが動いていないか
- 脇腹が左右へ広がっているか
- 背中側にも呼吸が入る感覚があるか
- 首や顎に力が入っていないか
次に、口から細く長く息を吐きます。
お腹を強くへこませる必要はありません。肋骨の下側が少しずつ内側へ戻り、胸の高さが自然に下がっていくかを確認してください。
息を吐いた後、肩を持ち上げずに鼻から静かに吸います。脇腹や背中が少し広がれば、胸の上だけで呼吸していたときとの違いを感じられるはずです。
無理に大量の空気を吸おうとせず、3回程度から行いましょう。めまいや息苦しさが出た場合は中止してください。
呼吸が浅いときに医療機関を受診した方がよい症状
呼吸の浅さや息苦しさは、姿勢だけで起こるものではありません。
次のような症状がある場合は、ストレートネックの問題と決めつけず、医療機関へ相談してください。
- 突然、強い息苦しさが現れた
- 胸や背中の痛みを伴う
- 安静にしていても呼吸が苦しい
- 少し歩くだけで息切れが強くなる
- 咳、発熱、喘鳴が続いている
- 動悸、冷や汗、めまいを伴う
- 唇の色が青紫色になる
- 呼吸器疾患や心疾患の既往がある
息切れや呼吸困難が進行している場合は、早めの受診が必要です。
浅い呼吸は首ではなく全身のつながりから見直す
肩を持ち上げながら呼吸し、脇腹や背中が広がらないタイプの浅い呼吸では、ストレートネックと胸郭の動きを見直す必要があります。
首を後ろへ引くだけでは、呼吸は変わりません。
胸椎が動くこと、肋骨が前後左右へ広がること、息を吐いたときに肋骨が自然に閉じること、そして胸郭と骨盤が無理なく重なることが大切です。
Healthcare Studio ileでは、静止した姿勢の見た目だけでストレートネックを判断しません。
実際に呼吸したときの肋骨の動き、胸椎の動き、骨盤との位置関係、首や肩に力が入るタイミングまで確認します。そのうえで、一人ひとりの身体に合わせて、ピラティスやトレーニングを身体を変えるための手段として使用します。
深く息を吸えない、肩で呼吸している、首や肩をほぐしてもすぐに戻ると感じている方は、首だけでなく、呼吸をしているときの全身の動きを一度確認してみてください。
名古屋・栄・矢場町周辺で、自分の呼吸や姿勢をどこから見直せばよいか分からない方は、Healthcare Studio ileの初回体験でご相談いただけます。
参考文献
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- López-de-Uralde-Villanueva I, et al. Respiratory Dysfunction in Patients with Chronic Neck Pain: Systematic Review and Meta-Analysis. Disability and Rehabilitation. 2023;45:2422-2433.
著者・監修者プロフィール
水野豪司|著者・監修者
理学療法士、ピラティスインストラクター、Healthcare Studio ile代表。
名古屋・栄のHealthcare Studio ileで、姿勢の崩れ、首こり、肩こり、腰痛、呼吸の浅さなどに悩む方の身体をサポートしています。
痛みや張りを感じる部分だけを見るのではなく、胸郭、骨盤、背骨、足部などを含めた全身のつながりと、立つ・歩く・呼吸するといった実際の動作を確認することを大切にしています。一人ひとり異なる身体の状態を評価し、ピラティスやトレーニングを活用しながら、その場しのぎではない身体づくりを目指しています。
