【なぜ?】座りすぎが良くない理由と対策を理学療法士が徹底解説!
座りっぱなしの現状
今回は「知っておきたい座りっぱなし対策」についてお話しします。
世界的に見て、日本人は座っている時間が長いことが明らかになっています。
オーストラリアの研究機関によると、日本人成人は平日に座っている時間が世界20カ国中最も長く、1日420分、つまり7時間も座り続けていることが分かっています。
座りすぎの健康への影響
座り過ぎはあらゆる病気の引き金になり、特に心臓病や癌に対する影響が大きいとされています。
オーストラリアの研究機関によると、1時間座っているだけで寿命が平均して22分短縮する可能性があると報告されています。
心臓病、脳の病気、肥満、糖尿病、癌など、さまざまな健康リスクが指摘されています。
日本人を対象とした研究では、座っている時間が長いほど死亡リスクが高まり、特に1日9時間以上座っている人は将来的に死亡リスクが高くなるとされています。
では「普段座りっぱなしでも週末などに運動すれば良いのでは?」との疑問が生まれますが、それだけでは解決になりません。
運動だけでは不十分
研究によると、運動不足と座りっぱなしは別の問題であり、運動を増やしても座りっぱなしの時間が長いままではリスクを相殺できません。
座りっぱなしの時間を短くすることが健康上のリスクを下げるためには重要です。
運動習慣は大切ですが、座りっぱなしを解消するためには座位時間を短くすることが重要であると言えます。
運動と座りすぎの関係
こちらのグラフは総運動量と座っている時間が死亡率に与える影響をアメリカ人12万人以上で検証した研究結果です。
ここで1番右の赤いグラフ、こちらは運動量が最も少なくかつ座っている時間が6時間以上のグループで死亡率が跳ね上がっていることが分かります。
それだけでなく、同じ活動レベルのグループの中でも座っている時間が増えるほど死亡リスクが高くなっています。
興味深いのは、活動量を増やしても座っている時間が長いままではリスクを相殺できないということです。
このことから、運動不足と座りっぱなしは別の問題と言えます。
もちろん、運動習慣はつけた方がいいのですが、それ以上に座っている時間を短くすることが健康上のリスクを下げるためには重要であると言って良いでしょう。
座りっぱなしの危険性
座りっぱなしは体に悪いことをお伝えしてきましたが、ではなぜ座りすぎがそんなに体に悪いのでしょうか。
結論、長時間座っていることで血流が悪くなるからです。
1.血流の悪化と筋肉の活動
そもそも私たちは立っているだけでも筋肉を使い、エネルギーを消費します。
しかし、座りっぱなしの状態ではほとんど筋肉が動きません。
下半身には全身の筋肉の70%が集中していますが座りっぱなしではこれらの筋肉がほとんど活動せず、血液の循環が悪化します。
2.足の筋肉と心臓への負担
全身の血液は心臓だけが流れを生み出すわけではありません。
筋肉がポンプのように血を送り出すことで初めて全身の血流の流れがスムーズに送り出されます
特にふくらはぎは第2の心臓とも呼ばれ、全身の血流を生み出す重要な役割を果たしています。
しかし、座りっぱなしで足の筋肉が十分に動かされないため、ポンプの役割を果たさなくなります。
これにより心臓に大きな負担がかかり、心臓病にかかりやすくなります。
3.血流のスムーズな流れと座りっぱなしの関係
血流がスムーズに全身に送り出されるためには、筋肉がポンプのように血液を送り出すことが必要です。
座りっぱなしではこのメカニズムが働かず、血流が悪化してしまいます。
座りっぱなしの対処法を紹介
今日から取り入れたい座りっぱなしの対処法をご紹介します。
仕事
• 用事があるときはメールを使わず歩いて行く
• 立って仕事や会議する(昇降式デスク)
• 立つことを促すアプリ
•通勤電車ではなるべく座らない
自宅
• 座ってテレビ、SNSを見る時間を減らす
• CM中は立ち上がって家事をする
• amazonよりも買い物に出る
• PCは30分おきにタイマーをかけてストレッチ
これらの方法はどれも簡単にできますが、実際は面倒で取り組みにくいこともあります。
その際は周りの環境を工夫し、“不便”を上手に作ることで、座りっぱなしを防ぐ助けになります。
1.不便を活かしたアプローチ
不便をうまく作ることで、座りっぱなしの状態から抜け出すための環境づくりが可能です。
例えば、個々のゴミ箱をデスクの近くではなく、一番遠い場所に置く、共用のものを取りに行かないと仕事が進まないような状態にするなどです。
これにより、自然と席を立つ機会が増えます。
2.不便を解決するために動く
不便を解決するためには、立ち上がって歩くといった行動が必要です。
周りの環境を不便に作り、それを解決するために行動することで、長時間座りっぱなしの状態を改善できます。
これを工夫して取り入れてみてください。
3.立ち上がる頻度
立ち上がる頻度は大切です。
理想的な頻度は30分に1回です。
最低でも1時間に1回は椅子から立ち上がり、動くようにしましょう。
1時間に5分ほど歩くことを心がけるだけでも、座りっぱなしによる血行不良の改善が期待できます。
これらの方法を実践することで、日常生活において座りっぱなしの時間を減らし、健康を維持する一助となるでしょう。
ぜひこれらのヒントを取り入れてみてください。
体に負担がかからない座り方
座り続けることを減らしたいと言っても、その限界があります。
そこで、座り方の改善によって体への負担を軽減することが可能です。
1.正しい座り方の重要性
正しい座り方をしないと、猫背になり腰や肩に負担がかかってしまいます。
体に負担のかかりにくい座り方のポイントは、骨盤をしっかり立てて足裏が地面についている状態です。
これにより体は支えやすく安定します。
2.ディスプレイの位置と目線の重要性
パソコンのディスプレイまでの距離や目線の高さも重要です。
ディスプレイまでの距離は大体40cmほどが望ましく、目線は水平よりやや下にあることが好ましいです。
これにより背骨のカーブを維持し、背中や腰の痛みの改善にも効果的です。
3.姿勢の変化の重要性
ただし、注意が必要なのは正しい姿勢が一つであるという固定観念はないということです。
姿勢はずっと同じでいるのではなく、変えていくことが大切です。
綺麗な姿勢であっても同じ姿勢を続けること自体が体に負担をかけるため、姿勢を柔軟に変化させていくことが必要です。
何かにとって良い姿勢が、別のものにとっては悪い姿勢である可能性があります。
良い姿勢を見つけたからといって、それをずっと続けると他の問題を引き起こす可能性があるので、姿勢の変化が重要です。
良い姿勢は変化し続けるものと認識しましょう。
企業で行われている座りすぎ対策としての取り組み
次に実際の座りすぎ対策として企業でどのような取り組みが行われているかを紹介します
1. スタンディングデスクの導入
近年、企業では座りすぎ対策としてスタンディングデスクが導入されています。
これは、座りながらの仕事をせずに立ったままできるデスクで、例えば会議中も立ったままで行うことができます。
2. 毎時の歩き回り運動
ある企業では、1時間ごとに時計から流れる曲に合わせて、その間の40秒ほど全員でデスク周辺をぐるぐる歩き回る取り組みが行われていたりします。
これにより、座りっぱなしの時間が緩和され、同時にメンタル的なリフレッシュが期待できます。
3. 定期的なストレッチタイム
一部の企業では、就業中に毎日3回、1回3分の時間をかけて部署全員で立ち上がり、ストレッチする時間を設けています。
これは座りすぎが減るだけでなく、眠気の取れる効果や気分のリフレッシュにも寄与します。
4. 通勤手段を変える
他にも通勤手段も考慮され、階段を意識的に利用する、徒歩や自転車通勤に変えるなどの取り組みがあります。
これにより、通勤時にも体を動かすことができ、座りっぱなしの時間を減らすことができます。
5. バランスボールの活用
特にホームオフィスの場合、バランスボールに座ることで姿勢を保ちつつ体を動かすことができます。
在宅ワークの方々には、座椅子を使う代わりにバランスボールを導入するのも一つの手です
歩くことの健康への効果
健康的な生活を送るためには、日常的な運動が不可欠です。
その中でも歩くことが与える効果は非常に大きいです。
ここでは、歩くことが与える具体的な健康効果について探っていきます。
1. 日々の歩数と心臓病のリスク
研究によれば、1日の歩数が4000歩の人と8000歩の人を比較した際、心臓病での死亡リスクに顕著な差が見られます。
8000歩の人は4000歩の人に比べて死亡リスクが50%下がるとされています。
この事実は、積極的な歩行が心臓の健康に寄与することを示唆しています。
2. 癌の死亡率の低下
歩くことがもたらす健康効果は心臓病だけに留まりません。
癌の死亡率についても、日々の歩数が影響を与えます。
4000歩の人に比べて8000歩の人は、癌の死亡率が30%低くなります。
適度な運動が脂肪リスクを減少させ、総合的な健康をサポートすることが示唆されています。
3. 毎日の歩行がもたらす総合的な健康効果
これらの研究結果から明らかなように、毎日の歩行は単なる運動だけでなく、心臓病や癌などの慢性疾患のリスクを軽減する効果が期待できます。
日常生活に歩行を取り入れることで、健康的で活力に満ちた生活を実現する一環として、積極的に歩く習慣を身につけましょう。
まず何から始めるべき?
ここまでお伝えして いきましたがまず私たちは何から始める べきなんでしょうか
1. 座りっぱなしの問題とは?
座りっぱなしの習慣は多くの人にとって身近なものですが、その健康への影響は大きいと言えます。
まずは座りっぱなしの問題点とその解決策について考えてみましょう。
2. 意識の持ち方が大切
座りっぱなしは楽な姿勢と思われていることがほとんどですが、実はこれが疲労感を増大させている可能性があります。
研究によれば、座りっぱなしの時間を減らすことで体の疲れが軽減されるという報告もあります。
まずは意識を持って座りっぱなしの習慣を見直し、立つことができる環境を整えましょう。
3. 環境づくりの大切さ
座りっぱなしの問題は単なる個人の意識だけで解決できるものではありません。
座りすぎの問題がなかなか解決しない原因として、座りすぎ 対策に魅力が感じられないということがあげられます。
大事なのは立つことができる環境を作っていくことです。
オフィスのレイアウトや全体の雰囲気も重要な要素です。
事例1)
ある会社 では社員が立ったまま仕事をしていたところ別の社員から「あの人かっこつけてる」って言われてしまった
事例2)
頻繁に立ち上がることに対して”仕事に集中していない”と判断をされるかもしれないという懸念
このような雰囲気の中ではなかなか立ちたくても立てませんよね。
雰囲気作りに関しては、社員みんなが座りすぎはなぜよくないのか、立ち上がることでどんないいことがあるのかを知る機会を作ることも大切です
4. 座りっぱなし対策を始めよう
座りっぱなしの問題に取り組むためには、簡単でかつ実効性のある対策を始めることが肝要です。
座りっぱなし対策は個々が主体となり、自分に合った方法で取り組むことがポイントです。
一番重要なポイントは、座ることがダメなわけではなく、同じ姿勢を長時間続けないこと。
座りすぎがダメなのであり座ること自体は実は すごく体にとって大事な行為です。
立ちたい時には立ち、座りたい時には座ることができる環境づくりが座りっぱなし対策の鍵と言えるでしょう。
どうしても座って長い会議や研修を実施しなければいけない場合は、休憩時間を設けてその時間に立ち上がるようにしましょう。
5. 座りっぱなし対策の重要性
これまでの情報をまとめて強調しておきましょう。
座りっぱなしはただの習慣ではなく、健康への悪影響が懸念されます。
しかし、座ること自体が悪いわけではなく、立ち座りを適切に使い分けることが大事です。
座りっぱなし対策は、一人ひとりが自らの意識を変え、環境を整えることからスタートします。
ぜひ、これを機に座りっぱなしの習慣に立ち向かってみてください。
最後に
1. 日本のオフィス環境の変化
最近の日本では、様々な環境が進化し、仕事中に動かなくても手が届くようなオフィスのレイアウトが一般的になっています。
しかし、この便利でスマートな環境が健康とのトレードオフになっていないか、考えてみましょう。
2. 効率を追求するオフィスレイアウト
オフィスのレイアウトが効率を追求した結果、手が届く範囲に必要なものが揃っていることが多いです。
このような環境は便利で効率的ですが、その価値観に慣れすぎることが、長期的には健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
3. 座りっぱなしの長期的なデメリット
注意したいのは、座りっぱなしの時間が長いからといって、すぐに病気が発症するわけではありません。
だからこそ、そのデメリットは見過ごされがちです。
「私たちの体にとってこの座りっぱなしは本当に良いことなのでしょうか?」と考えてみましょう。
4. 行動の自動化と環境の影響
座りっぱなしの状態になる理由は、健康意識ややる気の問題だけでなく、環境の影響が大きいです。
人の行動のほとんどは自動化され、環境が大きな影響を与えています。
例えば、駅で上りの長い階段とエスカレーターがあった時、多くの人が階段を使う方が健康にいいと分かっていてもついついエスカレーターを選んでしまいますよね。
5. 環境を変えて行動を変える
私たちが座ってしまうのは環境のせいによる部分が大きいです。
環境を変えない限り、行動を変えることは難しいと言えます。
だからこそ、環境を工夫し、立つことを促進することが大切です。
運動が苦手な人でも、立ってみることは簡単な行動改善です。
是非、今日から取り入れてみてください!
参考文献
•リーフレット「座位行動」 厚生労働省e-ヘルスネット •Van der Ploeg, et al. Sitting Time and All-Cause Mortality Risk in 222,497 Australian Adults. Arch Intern Med. 2012;172(6):494-500. •Basterra‐Gortari, et al. Journal of the American Heart Association. Television Viewing, Computer Use, Time Driving and All‐Cause Mortality: The SUN Cohort, Volume: 3, Issue: 3, DOI: (10.1161/JAHA.114.000864) •Epidemiol. 2010 Aug 15; 172(4): 419–429. •Tremblay, et al. Physiological and health implications of a sedentary lifestyle. Appl Physiol Nutr Metab. 2010;35(6):725-740. •Hamilton, et al. Role of low energy expenditure and sitting in obesity, metabolic syndrome, type 2 diabetes, and cardiovascular disease. Diabetes. 2007;56(11):2655-2667.
•リーフレット「エコノミークラス症候群の予防のために」 厚生労働省
•公益財団法人 明治安田厚生事業団(2019-09-01閲覧)
公益財団法人 明治安田厚生事業団 -「座りすぎ」はカラダにもココロにも悪い?(2019-09-01閲覧)
公益財団法人 明治安田厚生事業団 – 座りっぱなし対策と音楽と(2019-09-01閲覧)
スポーツ庁 – プラス「10」分のウォーキングから始めるストレス対策(2019-09-01閲覧)
スポーツ庁 – スポーツエールカンパニー(スポーツ庁)(2019-09-01閲覧)
スポーツ庁 – 平成30年度女性スポーツ推進事業(女性のスポーツ参加促進事業)(2019-09-01閲覧)
スポーツ庁 – Spot in Life(2019-09-01閲覧)
厚生労働省 – エコノミークラス症候群の予防のために(2019-09-01閲覧)
•岡浩一朗 著『「座りすぎ」が寿命を縮める』(大修館書店